シングルマザーが手当もらいすぎと言われる理由と母子家庭の手当一覧

シングルマザーが手当もらいすぎと言われる理由と母子家庭の手当一覧

「シングルマザーは手当をもらいすぎだ」という声を耳にすることがあります。

母子家庭(シングルマザー世帯)は、一人で子育てと家計を支える大変さから、国や自治体による様々な公的支援を受けることができます。一方で、支援制度の数だけを見ると「手当だらけで優遇されすぎ」と誤解されることもあるのです。

けれども、本当に母子家庭は手当をもらいすぎて裕福に暮らしているのでしょうか。本記事では、母子家庭が受けられる主な手当の一覧とともに、「もらいすぎ」と言われる背景や理由、そして母子家庭の経済状況の現実をデータに基づいて解説します。

まずはシングルマザーが受け取れる手当や支援制度にはどのようなものがあるか、その一覧を確認しましょう。その上で、「手当もらいすぎ」と言われる3つの理由を順にひも解き、誰がそう感じるのか、そして母子家庭が本当に裕福なのかを考察します。

目次

シングルマザーがもらえる手当一覧

シングルマザーを含むひとり親世帯が利用できる主な手当・支援制度には、以下のようなものがあります。これらを活用することで、母子家庭の生活を経済面から支えることができます。

その1 児童手当

児童手当は高校卒業までの子どもを養育している世帯に支給される手当です。0歳~3歳未満は一律月額15,000円、3歳以上~高校生年代までは月額10,000円(第3子以降は30,000円)といった金額が子ども一人当たり支給されます。所得制限は2024年10月より撤廃されています。児童手当は全家庭対象の普遍的給付ですが、母子家庭も当然受け取れます。

その2 児童扶養手当

児童扶養手当はひとり親家庭の生活支援を目的とした代表的な手当です。両親が離婚・死別した子どもや未婚の母の子どもなど、父または母と生計を同じくしていない児童を養育している母または父に支給されます。

対象児童は18歳到達年度末まで(障害児は20歳未満)です。毎月の支給額は所得に応じて定められ、子ども1人の場合で全額支給なら約4万6,690円、所得がある程度ある場合は一部支給で4万6,680円~最低1万1,010円まで段階的に減額されます。第2子以降は一人につき約1万1,030円(満額)を加算します。

所得制限内であれば離婚・死別・未婚いずれの母子家庭でも受給可能ですが、生活保護を受給している場合は児童扶養手当相当分が保護費から減額調整されるため二重にもらえるわけではありません。

その3 児童育成手当

児童育成手当は東京都など一部自治体独自の手当です。東京都の場合、「児童育成手当」として18歳まで(障害児は20歳未満)の子どもを扶養するひとり親等に子ども1人当たり月額13,500円(障害がある子は15,500円)が支給されます。

所得制限があり、一定以上の所得がある家庭は対象外です。この手当は自治体独自の制度であり、東京都以外の地域にも名称や金額は異なりますが類似の制度がある場合があります。

その4 ひとり親家庭住宅手当

ひとり親家庭の住居費負担を軽減するため、自治体ごとに設けられている住宅手当・家賃補助制度です。例えば自治体別の例では「浦安市:家賃1万円超の額に対して月1万5,000円を上限支給」「国立市:家賃の1/3を補助(上限1万円)」「鎌倉市:月額8,000円まで支給」など自治体により金額や条件が異なります。所得や子どもの年齢(18歳未満など)等の要件を満たすひとり親が対象です。

その5 ひとり親家庭等医療費助成制度

母子家庭・父子家庭を対象に、医療機関受診時の自己負担医療費を自治体が助成する制度です。子どもが18歳(障害がある場合20歳)になるまでのひとり親家庭が対象で、所得制限があります。具体的な助成内容(医療費の無料化や一部補助)は自治体によって異なるため、お住まいの市区町村で確認する必要があります。

その6 国民健康保険料・国民年金保険料の減免

ひとり親家庭で収入が一定基準を下回る場合、加入する国民健康保険の保険料が軽減されたり、国民年金保険料について申請により全額または一部免除・納付猶予が認められたりしますlimo.media。例えば国民年金は前年所得等に応じて全額免除~1/4免除などの制度がありlimo.media、国民健康保険料も失業・減収時や低所得世帯向けに減免措置があります。これらは直接「現金給付」ではありませんが、支出を減らす支援策として母子家庭の生活を下支えしています。

遺族年金(死亡した配偶者の年金受給権)も死別により母子家庭になった場合の重要な収入源です。実際に母子世帯になった理由を見ると、約79.5%は離婚によるものですが、死別は5.3%存在しており、該当の家庭では厚生年金や国民年金から遺族年金が支給されます。遺族年金は「手当」ではなく年金制度上の給付ですが、母子家庭の家計を支える公的支援の一つと言えます。

以上のように、シングルマザーが利用できる公的支援制度は多岐にわたります。これらはそれぞれ対象要件(子どもの年齢や人数、世帯の所得水準、住居状況など)が細かく定められており、誰もが無条件で満額をもらえるものではありません。それでも支援策の種類が多いのは、ひとり親家庭が経済的に非常に厳しい状況に置かれやすいためであり、子どもの健やかな育ちを社会全体で支える目的があるからです。

シングルマザーが手当もらいすぎと言われる理由

では、これほど多くの支援を受けられるにも関わらず、なぜ「シングルマザーは手当をもらいすぎ」「優遇されすぎだ」という声が出てくるのでしょうか。ここからは、その理由を3つに分けて解説します。

理由1: 支援制度の種類が多い

第一の理由は、ひとり親向けの支援制度が多いこと自体が、外部の人から見ると「そんなにたくさんの手当をもらえるのか」と誤った印象を与えている点です。前述したように、母子家庭が利用できる手当・助成制度は国のものから自治体独自のものまで数多く存在します。

たとえば児童手当・児童扶養手当・医療費助成・住宅手当・税や保険料の減免措置など枚挙にいとまがありません。「○○手当」「△△助成」と名前がたくさん並ぶため、制度をよく知らない人からすれば「シングルマザーはあれもこれもお金をもらっていてずるい」と感じてしまうケースがあります。

しかし、重要なのは、各手当には支給条件があり重複して満額受給できるわけではないことです。例えば、児童扶養手当は所得制限内でないと支給されませんし、生活保護を受ける場合は児童扶養手当分が減額調整されます。

児童手当も所得上限超過世帯には特例給付(月5千円)のみとなる仕組みがあります。また自治体独自の手当は居住地域によって有無や金額が異なり、全員が網羅的に受け取れるわけではありません。制度の名前の数だけを見て「これだけ貰えるんだ」と考えてしまうのは早計であり、実際の平均支給額や適用状況は決して高額ではないのです。

支援制度が多いのは、それだけ母子家庭が直面する課題が多様であり、総合的なサポートが必要とされているからに他なりません。

理由2: 派手な一部の母子家庭が誤解を招いている

第二の理由は、ごく一部のシングルマザーの生活ぶりが周囲に誤解を与えていることです

例えば、ある女性は「シングルマザーの友人は毎日短時間しか働かないのに、ネイルや美容に月4万円も使って旅行にも頻繁に行っていてずるい」と感じ、「手当をもらいすぎではないか」とYahoo知恵袋に書き込んでいました。

このように、身近なシングルマザーが意外と余裕があるように見えると、「自分より楽をしてお金をもらっているのでは」と羨ましく思ったり、不公平感を抱いたりする人がいるのです。

しかし、こうしたケースは特例的な事情や見えない収入源がある可能性が高いと指摘されています。先述のYahoo知恵袋の相談では、ベストアンサーとなったシングルマザーの方から「仮に児童扶養手当など満額もらっても子ども1人なら月6万5千円程度。満額もらえるのは非課税レベルの低所得世帯に限られる。

そこに月8万円程度のパート収入を足しても、合計13万円ほどで生活費すべてを賄うのがやっと。ネイルや旅行に使えるお金など出てこない」という現実的な回答がありました。もしそのご友人が美容や旅行を楽しめているとしたら、養育費(父親からの仕送り)や実家・親族からの援助、離婚時の慰謝料など、公的手当以外の収入があるのではないか、とも述べられています。

このように、一部の派手に見える母子家庭は例外的なケースである可能性が高く、それをもって大多数のシングルマザー像と考えるのは誤りです。実際には約86.3%の母子家庭の母が働いており(パート・アルバイト等非正規を含む就業率)、多くは収入ギリギリの中で子育てと仕事を両立させています。

なかには正社員でしっかり働いているシングルマザーもいますが、その場合は児童扶養手当などの支給対象から外れることも多く、代わりに自力で生計を支えているのです。

目立つ一例だけを切り取って「もらいすぎ」「ずるい」と決めつけてしまうのは、制度の仕組みや大多数の現状を知らないがゆえの誤解と言えるでしょう。

理由3: シングルマザーへの自己責任論や偏見が根強い

第三の理由には、社会的な偏見や「自己責任論」の存在が挙げられます

シングルマザーになった事情は様々ですが、中には「離婚してシングルになったのは本人の勝手だ」「シングルマザーになるのは男性を見る目がなかったせい」という偏見を持つ人もいます。

そのような見方をする人は、「自分の責任でそうなったのだから、国に頼らず自分で何とかすべきだ」「税金で援助するのはおかしい」といった否定的な意見を抱きがちです。実際、ネット上でも「勝手に離婚したんだから自己責任。国のせいにするな」といった厳しい書き込みが散見されます。

しかし、このような家族の自己責任論は、多くの専門家から問題視されています。ひとり親家庭の貧困問題は個人の責任だけでは解決できない社会課題であり、「誰もがひとり親になる可能性がある。決して特別な存在ではない」という指摘もあります。

事実、ひとり親世帯は日本社会で珍しいものではなく、離婚件数は年間18万件以上にのぼります。また未婚の母となるケースや配偶者と死別して母子家庭になるケースも一定数存在します。決して本人の努力不足や性格だけで招いた境遇とは言い切れないのです。

それでも根強い偏見によって、「シングルマザーばかり優遇してズルい」という感情的な非難が起こることがあります。例えば、公的支援に対して「税金の無駄遣いだ」といった批判も時折耳にします。しかし日本のひとり親世帯(特に母子家庭)の貧困率はOECD加盟国の中でも最悪水準であり(36か国中ワースト5位)、もはや個人の努力ではどうにもならない構造的問題であると認識されています。行政も近年は子ども家庭庁の設立や子ども未来戦略の中でひとり親支援の強化を打ち出しており、「自己責任論」だけでは子どもの貧困を放置してしまうとの危機感があります。

「手当もらいすぎ」と感じる人は誰なのか?

では実際に「シングルマザーは手当をもらいすぎだ」と声高に言っているのは、どのような人たちなのでしょうか。

傾向としては、当事者ではない人、つまり自分はひとり親家庭ではなく周囲にシングルマザーがいる人や、インターネット上で見聞きした情報だけで判断している人が多いと考えられます。

特に、身近にいた友人のシングルマザーの生活ぶりを見て羨ましく感じた既婚者や、フルタイムで働きながら子育てする既婚のワーキングマザーが「自分より楽をしているのでは?」と感じて不満を漏らすケースが想定されます。

たしかに、シングルマザーではなくとも経済的に子育てで苦労している人たちは存在します。それゆえ、どうして「母子家庭ばかり優遇されるのか?」と切ない気持ちになるのも無理はないでしょう。

また、シングルマザーとは直接関わりがなくとも、ネット上のまとめ情報や噂話だけを見て「こんなに色々手当があるらしい、ずるい」と書き込む人もいます。特徴的なのは、そういった発言をする人々の中には支援制度の中身やシングルマザーの暮らしの実態を詳しく知らない場合が多いことです。

例えば「母子家庭は保育料もタダらしい」「所得税も住民税も免除されて贅沢している」といった誤解を交えて批判する声も散見されます。しかし実際には、保育料や税金についても減免措置を受けられるのは低所得世帯のみであり、全ての母子家庭が無条件で免除されているわけではありません。誤った前提で「優遇されすぎ」と憤っているケースも少なくないのです。

母子家庭の方が裕福に過ごせるのか?

結論から言えば、母子家庭の方が裕福に過ごせるということは決してありません。 むしろ統計データを見ると、日本の母子家庭の多くが厳しい経済状況に置かれており、二親家庭より貧困に陥りやすいのが現状です。

厚生労働省の調査によれば、母子世帯の平均年間収入は約306万円に過ぎません。これは子どもがいる世帯全体の平均所得のわずか41%程度に留まる水準です。言い換えれば、二親がいる一般的な家庭の収入が100とすれば、母子家庭は平均してその半分以下しかないのです。

しかも、この平均収入306万円のうち、シングルマザー自身が働いて得ている稼働所得は約231万円であり、残りのわずか約75万円ほどが児童手当や公的年金等の社会保障給付で補われているに過ぎません。

つまり、収入の約4分の3は本人の働きによるもので、手当が占める割合は約12%程度にすぎないという実態があります。このデータからも、シングルマザーが手当だけで裕福に暮らしているわけではなく、主な収入源はあくまで自身の労働収入だと分かります。

さらに深刻なのは、貧困線以下で暮らすひとり親世帯の割合です。政府統計に基づく最新の数値では、日本の子どもの相対的貧困率(全国の平均)は11.5%ですが、ひとり親世帯に限ると44.5%にも達しています。実に母子家庭・父子家庭のお子さんの2人に1人近くが貧困状態に置かれている計算です。

母子家庭の貧困率がここまで高いのは、世界的に見ても際立った問題であり、日本はOECD加盟国36か国中ワースト5位という非常に厳しい順位にあります。このように統計を見れば、母子家庭が特別裕福だとか、もらった手当で贅沢できるような余裕がある家庭ばかりではないことは明白です。

実際の生活感覚としても、母子家庭の出費は決して少なくありません。母子世帯の平均的な家計支出は月21万1千円に上るとのデータもあります。収入が低い中で家賃や食費、教育費などを捻出しなければならず、貯蓄まで手が回らない家庭も多くあります。

厚労省「全国ひとり親世帯等調査」(令和3年度)によれば、母子家庭の母の就業率は86.3%と非常に高い一方で、その働き方は**正規雇用が約48.8%、非正規雇用(パート・アルバイト等)が38.8%**となっており、非正規では十分な収入を得づらいために結果として低所得に陥るケースが多いのです。「働いても貧困」という状態に陥りやすいのが、日本のシングルマザーの置かれた構造的な問題だと指摘されています。

もらいすぎなわけではない

シングルマザーが受け取れる手当や支援制度は数多く存在し、制度の名前だけを見ると「もらいすぎ」と感じる人がいるのも事実です。

しかし、本稿で見てきたように、その支援の多くは必要最低限の補助であり、決して贅沢ができるほどのものではありません。支援制度が充実しているのは、ひとり親家庭が抱える経済的困難が深刻であり、社会として子育てを支えるために多角的な支援が求められているからです。

「手当もらいすぎ」と言われる背景には、支援制度の数に対する表面的な誤解や、目立つ一部のケースによる偏見、さらには根強い自己責任論がありました。そうした声を上げる人の多くは当事者ではなく、現状を正しく理解していない傾向があります。

大切なのは、支援への偏見ではなく正しい理解と共感を持つことです。ひとり親家庭への手当は、母子ともに健康で文化的な生活を営むためのセーフティネットであり、子どもの貧困を防ぐ投資でもあります。支援を充実させることは、子どもの将来や社会全体の安定にもつながるという視点が専門家からも示されています。シングルマザーが安心して子育てと仕事に取り組める環境を整えることは、ひいては次世代を育む社会的責任でもあります。

「手当をもらいすぎ」と批判する前に、ぜひ実態データや当事者の声に目を向けてみてください。支援策は決して特権ではなく、必要な人々がようやく最低限度の生活を維持するための制度です。母子家庭が経済的・精神的に安定して暮らせるよう支えることは、子どもたちの健やかな成長を守り、将来の社会を支える人材を育てることにも直結します。シングルマザーへの理解と支援が広がることで、「もらいすぎ」ではなく「支え合い」として温かく見守る社会になることが望まれます。

参考資料:

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本記事の監修者

森本 恭平のアバター 森本 恭平 運営者

東北大学法学研究科(公共法政策専攻)修了。幼少期は母子家庭で育った。東日本国際大学・福島復興創世研究所の准教授を経て、現在はデジタルマーケティング✖︎AIを専門にフリーランスとして複数の企業でアドバイザーを務めている。KADOKAWAドワンゴ情報工科学院、バンタンクリエイターアカデミーの講師。福島県総合計画審議委員会の審議員を歴任。

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