近年、日本の「シングルマザー(ひとり親家庭)」に関心が高まっています。メディアでも「シングルマザー=貧困」と語られることがあり、実際、ひとり親世帯の約45%が相対的貧困状態にあるとのデータもあります。
それだけに、シングルマザーの数が増えて社会問題化しているのではないか、「多すぎではないか」と心配する声も聞かれます。では、本当に日本のシングルマザーは“多すぎ”なのでしょうか?
本記事では、その実数や割合、増加の背景要因について公的データをもとに考察します。さらに、家庭を維持するために我慢すべきかどうか、そしてシングルマザー家庭で大切な子どもとの信頼関係**についても触れていきます。
シングルマザーが多すぎ?
日本のひとり親世帯数の推移(母子世帯・父子世帯)。青色のラインが母子世帯数、オレンジ色が父子世帯数を示している。1990年代から2000年代初頭にかけて母子家庭が急増し、その後はおおむね横ばいで推移している。
例えば平成5年(1993年)には全国で約94.7万世帯だったひとり親家庭が、平成15年(2003年)には約139.9万世帯と10年間で5割近く増加しました。増加の主な担い手は母子家庭で、ひとり親世帯全体に占める母子世帯の割合は常に8~9割と圧倒的です。
直近では平成28年(2016年)時点で母子世帯数は約123.2万世帯、父子世帯数は約18.7万世帯となっており、全ひとり親世帯の86.8%を母子世帯が占めています。
では、これらの数字は「多すぎる」と言える規模なのでしょうか。
絶対数で見れば、100万世帯を超えるシングルマザー家庭が存在することになります。しかし割合で見てみると、2015年の国勢調査によれば日本の全世帯約5,333万世帯のうち母子家庭は約75万世帯(1.42%)、父子家庭は約8.4万世帯(0.16%)に過ぎません。つまり、全世帯の中では70世帯に1世帯程度が母子家庭という計算です。
一方、子どもがいる世帯だけに限ると状況は少し変わります。厚生労働省などの調査によれば、子どものいる家庭の約1割は母子家庭にあたるとのデータがあります。実際、2016年時点で子どものいる家族の中で母子家庭は10%、父子家庭は1.5%を占めました。
この割合は20年前から約2倍に増えており、教室で30人の子どもがいれば2~3人はひとり親家庭の子ども、という計算になります。世界的に見れば、日本のひとり親家庭の割合は欧米より低い水準ですが、国内においては以前に比べ確実に増えてきたため、「想像以上に多い」と感じる人もいるのでしょう。
シングルマザーは何人に1人なのか?
結論から言えば、日本では「母親の約10人に1人」がシングルマザーです。先述のとおり、子どものいる家庭の約10%が母子家庭であることから、単純化すると「10家庭に1家庭」がシングルマザー家庭という割合になります。これは子どもを持つ母親全体に占めるシングルマザーの割合を示しており、決して過半数ではないものの無視できない規模です。
クラスに数人はひとり親家庭の子がいる計算になるため、子育てや教育の現場でもシングルマザー家庭への配慮や支援が重要になっています。

もう少し広い視点で見ると、成人女性全体から見たシングルマザーの割合はさらに小さくなります。婚姻歴の有無を問わず子どものいない女性も含めれば、シングルマザーは女性全体の数%程度に過ぎません。
ただ、既婚で子育て中の母親と比べれば、一人で家計と育児を支える負担を背負うシングルマザーは経済的・時間的に厳しい状況に置かれやすい傾向があります。
そのため、人数以上に注目され、行政や社会から特別な支援策が講じられているわけです。実際、「母子家庭等自立支援給付金」や「児童扶養手当」など、シングルマザーを対象とした公的支援制度も多数整備されています。
シングルマザー増えた要因
シングルマザー(ひとり親家庭)が増えてきた背景には、社会の変化に伴う複数の要因があります。ここからは、特に重要と思われる3つの要因について説明します。
要因1: 離婚件数の増加
シングルマザーが増えた最大の理由は、夫婦の離婚増加です。ひとり親になる理由として最も多いのは両親の離婚であり、シングルマザーになるケースの約8割を占めています。実際、日本の離婚件数は1990年代から2000年代初頭にかけて急増し、2002年には年間約29万組が離婚してピークに達しました。
その後やや減少したものの、近年でも毎年18~20万組前後が離婚しています。厚生労働省の統計によれば、2022年には婚姻件数約50.5万組に対し離婚件数約17.9万組と、割合にすると35%に上りました。つまり「結婚したカップルの3組に1組が離婚している」計算で、離婚自体が珍しいものではなくなってきています。

離婚が増えたことで、その結果として母親がシングルマザーになるケースも増加しました。特に子どもがまだ小さいうちに離婚する夫婦も多く、離婚した夫婦の約3組に1組は結婚5年未満で離婚しています。日本では法的な手続きが比較的簡単な「協議離婚(話し合いによる離婚)」が全体の9割を占めることもあり、夫婦関係が破綻すれば以前よりも離婚に踏み切りやすい社会環境があります。
要因2: 未婚の母による出産増加(非婚出産は少ないが緩やかに増加)
二つ目の要因は、未婚のまま母親になる女性の増加です。日本では伝統的に「結婚してから出産する」のが一般的で、未婚で子どもを産む人は少数でした。
しかし近年、この状況に変化の兆しが見られます。シングルマザーになる理由のうち「未婚での出産」は8.7%ほどで、割合自体は大きくありませんが年々増加傾向にあります。
事実、非嫡出子(両親が婚姻届を出していない状態で生まれた子)の割合は2001年には1.74%でしたが、2016年には2.29%に上昇しています。絶対的な数としてはまだ少ないものの、少しずつ未婚の母親が増えていることがわかります。
とはいえ、国際的に見ると日本の未婚の母から生まれる子どもの割合は依然として極めて低い水準です。日本では全ての子どものうち非嫡出子の割合は3%未満ですが、例えばアメリカでは約40%にも達しています。
この違いの背景には、日本社会において未婚で出産することへの抵抗感や偏見が根強く残っていることが考えられます。「子どもを産む=結婚することが前提」という考え方が依然一般的であるため、諸外国に比べ未婚の母は少ないのです。
しかし最近では、結婚という形にとらわれずシングルで子育てする生き方も徐々に受け入れられ始めています。それに伴い未婚シングルマザーも緩やかに増加し、シングルマザー全体の数押し上げる一因となっているのです。

要因3: 女性の社会進出と価値観の変化(離婚をためらう必要がなくなった)
三つ目の要因は、社会的な価値観の変化と女性の経済的自立です。女性の高学歴化や雇用機会の拡大により、結婚後も職業を持ち収入を得る女性が増えました。厚生労働省の統計では、15~64歳女性の就業率は2005年の58.1%から2023年には73.3%へと大幅に上昇しています。

共働き世帯も年々増加し、2022年には共働き世帯数(約1,262万世帯)が専業主婦世帯(約539万世帯)の2倍以上に達しました。このように女性が経済的に自立しやすい社会になったことで、たとえ配偶者との関係が悪化しても「お金のために離婚を思いとどまる必要」が薄れてきています。
事実、経済的理由で離婚に踏み切れなかった女性が自立できるようになったことが、離婚件数そのものを押し上げたと指摘する専門家もいます。
また、人々の意識面でも大きな変化がありました。昔は離婚やひとり親になることに対し「恥ずかしい」「子どもがかわいそう」といった否定的な見方が一般的でした。
けれども、近年は人権意識や男女平等の考えが浸透し、「無理に結婚生活を続けるより、自分らしく生きること」を重視する価値観が広がっています。家庭内暴力(DV)やモラハラからの避難、熟年夫婦の離婚増加(子育て終了後に離婚を選択)なども、その価値観変化の表れと言えるでしょう。
つまり、社会が離婚やシングルマザーに対して寛容になりつつあり、女性自身も「一人で育てる道を選んでもいい」と考える人が増えてきたのです。その結果として、離婚の増加と相まってシングルマザー家庭が以前より増えることになりました。
我慢して家庭を継続させる必要はない
「子どものためを思って離婚せずに夫婦で居続けるべきではないか」と悩む親御さんも多いでしょう。しかし、無理に我慢して家庭を維持することが必ずしも子どもの幸せに繋がるとは限りません。実際、親の離婚が子どもに与える影響についての調査では、意外な結果が報告されています。
法務省が委託した調査によれば、両親が離婚または別居した子どもたちに「今振り返ってそのことをどう思うか?」と質問したところ、「特に何も思わない」と答えた人が44.7%、そして「父母にも自分にも離婚して良かった」と答えた人が28.3%にのぼりました。つまり、約7割以上の子どもは両親の離婚に対して「悪いことではなかった」と感じているのです。
特に、家庭内で激しい不和や暴力などの問題がある場合、子ども自身もその環境に強いストレスを感じています。実際、ある家族問題の調査では「親の離婚に賛成だった」子どもが13%おり、いずれも両親の深刻な不和やアルコール依存・暴力といった問題に子ども自身が苦しめられていたケースでした。
このような場合、両親が無理に一緒にいるよりも、離婚して片親と安定した生活を送る方が子どもの心の負担は軽減します。つまり、「両親が揃っていること」自体よりも、子どもにとって安全で安定した生活環境を用意してあげることの方が遥かに重要なのです。
まとめ:子どもとの信頼関係が肝心
最後に強調したいのは、家族の形態がどうであれ「子どもとの信頼関係」こそが何より大切だということです。二人親家庭であっても親子の信頼関係が希薄では子どもの心は不安定になりますし、逆にシングルマザー家庭であっても親子の絆がしっかりしていれば子どもは安心して成長できます。
実際、シングルマザー家庭では母親が子どもにとって唯一の「安全基地」となりやすく、親子の信頼関係が非常に強固になる傾向があるとも言われます。その強みを活かしつつ、子どもの気持ちに寄り添ったコミュニケーションを心がけることで、子どもは自尊心と安心感を育み健やかに成長できるのです。
シングルマザーの方々は仕事や家事で忙しく、子どもと向き合う時間を確保するのが難しい場合も多いでしょう。しかし短い時間でも質の高いコミュニケーションを取る工夫次第で、十分に愛情と信頼を伝えることができます。例えば、食事の準備をしながら今日あった出来事を聞く、寝る前のわずかな時間に抱きしめて「大好きだよ」と伝える、といった些細な積み重ねが子どもの安心感に繋がります。
一方的に叱るばかりでなく子どもの話に耳を傾け、気持ちを受け止めてあげることで親子の絆はより深まるでしょう。専門家も「ポジティブなコミュニケーションによって子どもの自己肯定感が高まり、親子の信頼関係が深まる」とアドバイスしています。
まとめると、日本におけるシングルマザーは決して「多すぎる」というほどではないものの、確実に増えてきた存在です。その背景には離婚の増加や価値観の変化など社会の大きな流れがあります。そしてシングルマザーとして生きる決断は、決して子どもを不幸にするものではありません。
大切なのは子どもへの愛情と信頼関係をしっかり築くことです。家庭の形がどうあれ、子どもは親からの愛情と安心感を糧に成長します。シングルマザーという選択肢も一つの尊い人生の形です。社会全体でシングルマザー家庭を支え、偏見なく見守るとともに、シングルマザーの方々自身も子どもとの絆に自信を持って歩んでいってほしいと思います。
子どもにとって一番の幸せは、お母さんとの信頼し合える関係に他なりません。これからもその信頼関係を大切に、親子で明るい未来を築いていってください。
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