近年、日本においてシングルマザー(母子家庭)の数は増加傾向にあり、全国で約123.2万世帯に上っています。これらの世帯では、86.3%が就業していますが、その約半数が非正規雇用で働いており、経済的な困窮に直面している現状があります。一方で、労働力不足に悩む企業にとって、シングルマザーの雇用は新たな人材確保の機会となり得ます。
本記事では、企業がシングルマザーを雇用することのメリット・デメリット、そして国が提供する助成金制度について詳しく解説します。これからシングルマザーの雇用を検討している企業の人事担当者や経営者の方にとって、実践的な情報を提供いたします。
シングルマザーを雇用するメリット
企業がシングルマザーを雇用することで得られる利点は多岐にわたります。これから3つの主要なメリットについて詳しく説明します。
メリット1:長期雇用と高い専門性の獲得
シングルマザーの雇用は、企業にとって長期的な雇用関係の構築に繋がる可能性が高いという大きなメリットがあります。傾向として、母子家庭の母は経済的な安定を強く求めており、安定した職場環境が提供されれば長期間働く意欲が高いと言われています。
また、国の支援施策の方向性として、「能力開発」や「資格取得」などが推進されており、こどもが成長するにつれて教育費などの負担も増えることから、将来の経済的な世帯自立につなげる支援を重視しています。これにより、ひとり親を採用する企業にとっては、「長期的な雇用が期待できる、高い専門性を持つ従業員」を採用できるチャンスと捉えることができます。
実際に、国が実施している高等職業訓練促進給付金制度を利用した資格取得者のうち看護師資格を取得した人が4割(1,133人)を占め、その84%が常勤としての就業に結びついているという成果も出ています。
メリット2:責任感が強く仕事への意欲が高い
シングルマザーは家計を一人で支える責任を負っているため、仕事に対する責任感と意欲が非常に高いという特徴があります。子育てと仕事の両立という困難な状況を日々乗り越えているため、時間管理能力や効率性を重視した働き方ができる人材が多いです。
また、シングルマザーの多くは限られた時間の中で最大限の成果を出そうと努力するため、生産性の高い働き方を身につけています。企業にとっては、こうした高い就労意欲を持つ人材を確保できることは大きなメリットといえるでしょう。
メリット3:人材多様性の向上と社会貢献
シングルマザーの雇用は、企業の人材多様性(ダイバーシティ)の向上に寄与します。多様な背景を持つ従業員が働くことで、組織全体の創造性や問題解決能力の向上が期待できます。
さらに、シングルマザーの雇用は社会的な意義も大きく、企業の社会的責任(CSR)活動の一環として位置づけることができます。実際に、こども家庭庁では「はたらく母子家庭・父子家庭応援企業表彰」を実施し、積極的にひとり親の就業支援に取り組む企業・団体を表彰しています。これにより、企業イメージの向上や採用ブランディングの強化にも繋がります。
シングルマザーを雇用するデメリット
一方で、シングルマザーの雇用には企業が考慮すべき課題もあります。これから3つの主要なデメリットについて詳しく説明します。
デメリット1:急な欠勤や早退の可能性
シングルマザーの雇用において最も頻繁に指摘されるデメリットは、子どもの急な病気や学校行事により、急な欠勤や早退が発生する可能性があることです。特に未就学児を持つシングルマザーの場合、保育園からの呼び出しや子どもの体調不良により、予定していた業務に支障をきたすケースがあります。
このような状況は他の従業員に業務の負担を転嫁することになり、チーム全体の生産性や業務スケジュールに影響を与える可能性があります。企業側は、こうした事態に備えて業務の分担体制や代替要員の確保について事前に検討しておく必要があります。
デメリット2:残業や出張への制約
シングルマザーは家事・育児を一人で担っているため、残業や急な業務変更、出張への対応に制約がある場合が多いです。特に保育園の迎えの時間や学童保育の終了時間により、勤務時間に限界があることが一般的です。
このため、プロジェクトの緊急対応や繁忙期の残業対応において、他の従業員と同等の勤務を期待することが困難な場合があります。企業は業務配分や労働時間の管理において、こうした制約を考慮した勤務体制を構築する必要があります。
デメリット3:職場での理解不足による人間関係の問題
シングルマザーの雇用において、職場の理解不足が原因で人間関係のトラブルが発生するケースがあります。他の従業員から「優遇されている」という誤解や、子どもの病気による休みに対する無理解が生じることがあります。
また、「シングルだから余裕があるはず」「残業できないでしょ」といった不適切な発言がハラスメントに該当する可能性もあります。企業は、シングルマザーを含む多様な従業員が働きやすい職場環境を整備し、管理職や従業員への意識啓発を行うことが重要です。

シングルマザーを雇用する会社が利用する助成金一覧
国は企業がシングルマザーを雇用することを支援するため、複数の助成金制度を設けています。
これらの制度を活用することで、企業の雇用コストを軽減しながら、シングルマザーの就業機会を拡大することができます。
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
この助成金は、母子家庭の母等をハローワーク等の紹介により、継続して雇用する労働者として雇い入れた事業主に対して支給されます。
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
母子家庭の母等を原則3ヶ月間試行雇用することにより、その適性や能力を見極め、常用雇用へ移行するきっかけとしていただくことを目的とした制度です。
キャリアアップ助成金(正社員化コース)
有期契約労働者等を正規雇用労働者等に転換または直接雇用した場合に支給される助成金で、母子家庭の母を転換した場合には加算措置があります。
特定求職者雇用開発助成金(成長分野等人材確保・育成コース)
就労経験のない職業に就くことを希望するひとり親を、成長分野(デジタル、グリーン)の業務に従事する労働者として雇い入れる場合、または人材育成を行い賃金引き上げを行う場合に、特定就職困難者コースより高額の助成金が支給されます。
まとめ:家庭以上に”その人”をよくみる
シングルマザーの雇用は、企業にとって長期雇用の確保、高い就労意欲を持つ人材の獲得、組織の多様性向上という大きなメリットをもたらします。一方で、急な欠勤や勤務時間の制約、職場での理解促進といった課題にも対応する必要があります。
国は企業のシングルマザー雇用を支援するため、特定求職者雇用開発助成金、トライアル雇用助成金、キャリアアップ助成金など、充実した助成金制度を整備しています。これらの制度を適切に活用することで、企業は雇用コストを軽減しながら、社会的責任を果たすことができます。
シングルマザーの雇用を成功させるためには、柔軟な勤務体制の整備、職場の理解促進、そして国の支援制度の有効活用が重要です。人材不足に悩む企業にとって、シングルマザーの雇用は新たな可能性を開く重要な選択肢といえるでしょう。企業と社会が協力することで、シングルマザーが安心して働ける環境を構築し、持続可能な社会の実現に貢献することができます。
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