母親のいない家庭でお父さんに育てられた娘は、どのように成長し、どんな性格傾向を持つのでしょうか。日本では父子家庭の数は少ないものの、そうした環境で育つ女性も数多く存在します。
一般に「母親の愛情が足りないのでは」と心配されがちですが、それは偏見なのでしょうか。それとも、父子家庭特有の課題があるのか。
本記事では、父子家庭で育った女性の人数や特徴、愛情不足に関する見方、そして愛情不足に陥らないためのポイントを、データや専門家の意見を交えて詳しく解説します。
父子家庭で育った女性の数
日本の父子家庭は全体としてそれほど多くありません。厚生労働省の全国調査によれば、令和3年度時点で父子世帯は約14.9万世帯と推計されています。
父子家庭は母子家庭のわずか1割程度で、ひとり親世帯全体の7世帯に1世帯ほどの割合です。この14.9万世帯という数字は家庭の数であり、その中で育つ子どもの人数はさらに多くなります。したがって日本には、数十万人規模の女の子が父子家庭で成長していると見込まれるのです。
父子家庭は数が少ないため、公的支援や世間の関心が母子家庭ほど向けられてこなかった傾向があります。しかし、離婚や死別など様々な理由で父親のみが子育てする家庭も存在し、その現状を正しく理解することが大切です。
父子家庭で育った女性の特徴
父親のみの家庭で育つ娘には、育った環境ゆえの共通した傾向が指摘されています。
これから、その3つの特徴について順に説明します。
特徴1:まじめで素直に育ちやすい
父子家庭で育った女性は、総じてまじめで規律正しく育つ傾向があると言われます。母親不在の中で家庭を守る父親の姿を見ているため、自然と父親を敬い、その苦労を理解して逆らわない子が多いのです。
実際、「一家の大黒柱である父親に叱られるのは怖い」と感じることもあり、反抗期でも無闇に反発せず素直でいるケースが少なくありません。また、父親に対して「感謝の気持ち」を強く持つ子も多いとされます。シングルファザーの懸命な子育てと仕事の両立を身近で見ているため、娘は父親を深く尊敬し、「お父さんを支えたい」という思いからしっかり者に育つことがあるのです。
父親が一人で家事育児に奮闘する姿を見ることで娘は父親を労わる気持ちが芽生え、自分の悩みや不満をあまりぶつけず我慢強くなることもあるといいます。このように、父子家庭で育つ女性は父親思いで従順になりやすい面が見られます。
特徴2:自立心が高くて家事や責任を担う
母親がいない家庭では、娘が早くから自立心を育みやすいとされています。父親が仕事で留守にしがちな間、娘が家事全般を担う場面も多く、自然と家庭を支える役割を果たすようになるからです。たとえば「できる方がやろう」という意識で、掃除・洗濯や料理などを子どもながらに分担し、父親を助けるケースもあります。
その結果、小学生くらいでもしっかり家事をこなしたり、弟や妹がいれば母親代わりに世話を焼いたりと、大人びた振る舞いを見せることが珍しくありません。実際、父子家庭の娘は片親の分まで頑張ろうとして母性に目覚めるのが早く、恋愛や人付き合いにおいても同年代より落ち着いている傾向があるとの指摘もあります。
この早熟な自立は、父子家庭の生活環境によるものです。シングルファザー家庭では、父親が仕事と家事育児を両立する必要から子どもにも協力が求められる場面が多くなります。父親が残業で帰宅が遅い日は、娘が自分で食事を用意したり、時には父のために夕飯を温めて待っていることもあるでしょう。
その積み重ねが責任感と自立心を養い、結果的に強い生活力を持った女性に成長するのです。「父子家庭の子どもはしっかり者が多い」という声は、こうした背景からもうなずけます。
特徴3:悩みや寂しさを抱え込みがちでおとなしい
一方で、父子家庭で育った娘は自分の悩みを打ち明けにくい傾向も指摘されています。異性である父親には言いにくいことが多々あり、特に思春期の生理や体の悩みについては恥ずかしさから相談できずに我慢してしまうケースがあります。
冷静に考えると、初潮を迎えたとき本当は戸惑っていても、母親のようにすぐ対応してくれる人がいないため、娘は自分で何とかしようと耐えてしまいがちです。同様に学校での友人関係の悩みや恋の話なども、「お父さんに話してもどうせわからないだろう」「忙しそうだからやめておこう」と考えてしまい、心の内を明かさない子も少なくありません。
その意味では、シングルファザー家庭の子どもは寂しさを抱えやすいとも言われます。父親が仕事に追われて子どもと過ごす時間が少なくなると、親の愛情を感じる機会が減り、自尊心が低下してしまうおそれがあるかので注意が必要です。
愛情が足りないのは偏見なのか?
「母親がいないと愛情が不足するのではないか」という見方は、父子家庭に対する代表的な偏見と言えます。結論から言えば、「父子家庭だから愛情不足になる」と決めつけるのは偏見です。海外の研究者による分析でも「シングルマザーやシングルファザーの子どもでも安定型の愛着スタイルを持つ人は大勢いる」と報告されています。
要は、大切なのは親の人数ではなく愛情の質と量なのです。父親一人であっても、子どもとしっかり心を通わせていれば十分に愛情は伝わり、健全に成長できると言えます。
しかし一方で、父子家庭では愛情不足に陥りやすい状況が生じがちなのも事実です。前述の通り、多くのシングルファザーは仕事と育児を両立しなければならず、どうしても子どもと接する時間が少なくなりがちです。厳密に言うと、父子家庭だから自動的に愛情不足になるのではなく、忙しさゆえの時間不足が愛情不足を招くリスクとなっているのです。
愛情不足に陥らないように注意すべきこと
父子家庭で子育てをする上で、娘が愛情に飢えたり孤独を感じたりしないようにするためには、以下の3つのポイントに注意すると良いでしょう。
ポイント1:コミュニケーションの時間を最優先に確保する
まず何より、父娘のふれあいと対話の時間を十分に確保することが重要です。父親が仕事中心の生活になってしまうと、思春期の大切な時期にコミュニケーション不足に陥りがちです。可能な範囲で残業を減らしたり勤務時間を調整したりして、毎日少しでも顔を合わせて話す時間や一緒に食事をする時間を作りましょう。
実際、父子家庭では平日の夕食を共にできないケースが多いとのデータがあります。これを意識的に改善し、「おかえり」「今日は学校で何があった?」といった日常の会話を欠かさないことが大切です。
コミュニケーションを増やす際には、単に時間を共有するだけでなく子どもの話に耳を傾けて共感する姿勢がポイントです。娘が自分の感情や悩みを話し始めたら、途中で否定せず最後まで聞いてあげてください。思春期には反抗的な態度を取ることもありますが、それも成長の一環です。
ポイント2:娘の悩みに寄り添い、必要に応じて支援を借りる
娘が抱える思春期特有の悩みや心の問題には、できる限り寄り添い、必要なら外部の力も借りましょう。前述のように、父親には話しにくい問題を娘が一人で抱え込んでしまうケースがあります。これを防ぐには、日頃から「何か困っていることはない?」と声をかけて相談しやすい雰囲気を作ることが大切です。
それでも娘が打ち明けづらい様子なら、女性の親戚(叔母や祖母など)に協力をお願いしたり、学校の先生や保健室の先生に相談役になってもらったりするのも有効です。娘にとって話しやすい第三者の存在が、「誰にも相談できない」という追い詰められた気持ちを和らげてくれます。
また、悩みが深刻な場合は専門家の力を借りることも検討しましょう。カウンセリングや心理療法を利用すれば、娘は客観的な立場の大人に安心して本音を吐き出すことができます。民間の支援団体による居場所づくりなども有益です。
教育支援団体「あしなが育英会」も指摘するように、父子家庭の子どもには家庭外の第三の場所や支援者が心理的支えになるケースが多々あります。父親一人で無理に全て解決しようとせず、周囲のサービスや制度を積極的に活用することが、娘の心の健康を守ることにつながるのです。
ポイント3:周囲の理解と公的支援を上手に活用する
父子家庭ならではの負担を軽減し、親子の時間と心のゆとりを確保するために、社会的な支援を積極的に活用しましょう。経済的には母子家庭ほど支援制度が知られていない面がありますが、自治体には児童扶養手当や医療費助成などひとり親家庭向けの公的支援制度があります。
これらを申請・利用することで、経済的不安を和らげ父親が子どもと向き合う時間と気持ちの余裕を作り出せます。また、家事代行サービスやファミリーサポートセンターなどを利用すれば、父親が疲れ切ってしまうのを防ぎ、子どもに十分な愛情を注げる環境を整えやすくなるでしょう。
さらに、周囲の理解と配慮も重要です。父子家庭に対する偏見をなくし、温かく見守る姿勢が娘の自己肯定感を支えます。具体的には、学校の先生や近所の人々にも父子家庭の事情を理解してもらい、例えば学校行事で父親が都合で来られない場合に周りがサポートするといった配慮が望まれます。
逆に、「お母さんがいなくてかわいそうね」などの無神経な同情は子どもの心を傷つけかねません。そうした過度な干渉やプライバシーへの踏み込みは、愛情不足以上に子どもを苦しめる要因になり得ます。父子家庭は特別なものではなく多様な家族の一形態だと社会全体が理解し、必要な支援を充実させていくことが、娘の健やかな成長に寄与するのです。
まとめ:父子家庭が性格を決定づけるわけではない
父子家庭で育った女性には、父親との特別な絆ゆえの良い特徴と、母親不在ゆえの課題の両方が存在します。真面目で自立心旺盛に育つ一方で、心の内に寂しさを抱え込みやすい傾向も見られました。しかし、「父子家庭だから愛情が足りない」というのは一概には当てはまらない偏見です。
たった一人でも、愛情深い父親がいれば子どもはしっかり愛情を感じ取ることができます。重要なのは、父親が忙しさに追われて娘と向き合う時間を失わないこと、そして周囲が偏見を捨てて支えてあげることです。父子家庭の娘が愛情不足に陥らず健やかに成長するためには、父親と娘のコミュニケーション、必要に応じた外部サポートの活用、そして社会全体の理解が欠かせません。
そして、父子家庭で育ったからといって、金太郎飴のように性格が決定づけられるわけではありません。すなわち、知識ではなく、その人自身と向き合うことが大切なのです。
参考文献・情報源:
- 厚生労働省「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査」結果概要cfa.go.jp
- あしなが育英会コラム『母子家庭だけじゃない「ひとり親家庭」。父子家庭の現状』ashinaga.orgashinaga.org
- リディラバジャーナル「可視化されづらいシングルファザーの実態」journal.ridilover.jp
- BELCY『父子家庭の娘の性格や特徴5選』belcy.jpbelcy.jpbelcy.jp
- 高橋知子カウンセラー「母親がいなくて困った…父子家庭のデメリットとは?」plus-yokohama.complus-yokohama.complus-yokohama.com
- ReReシンパパ支援コラム『父子家庭の子供の特徴3選』rere.merere.merere.merere.me
- ダイヤモンド・オンライン『愛着障害の特徴~親の愛情不足で育った人~』diamond.jp
- 家事と育児とダイエット~主婦ブログ『父子家庭で育つ子どもの愛情不足とストレス』familymanma.comfamilymanma.comfamilymanma.comfamilymanma.com
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