シングルマザーなのにパートなのはなぜ?フルタイムがきつい背景や支援の形

シングルマザーなのにパートなのはなぜ?フルタイムがきつい背景や支援の形

日本ではシングルマザー(ひとり親家庭の母)の就業率は非常に高い一方で、貧困に陥りやすい現状があります。実際、ひとり親家庭の約半数が相対的貧困状態にあるとされ、シングルマザーの就業率は80%を超えるものの、そのうち約4割以上がパート・アルバイトなどの非正規雇用です。

なぜ多くのシングルマザーがフルタイムではなくパートで働いているのでしょうか。本記事では、その理由と背景、そしてシングルマザーの雇用を支援する仕組みについて詳しく解説します。

目次

シングルマザーなのにパートなのはなぜ?

シングルマザーが正社員のフルタイムではなくパートタイムで働くのには、いくつかの切実な理由があります。これから主な理由を3つ説明します。

理由1: 子育てとの両立には柔軟な勤務時間が必要

シングルマザーは一人で子育てと仕事を両立しなければならず、時間的制約が非常に大きいです。そのため、急な欠勤や勤務時間の調整が難しいフルタイム正社員よりも、勤務時間に融通が利くパートを選ばざるを得ない場合が多くなります

実際、正社員として働く場合、子どもの病気や学校行事などで「休みたい・早退したい」と思っても、職場によっては自己都合で勤務時間を調整することが難しいのが現状です。

シングルマザーに対する企業側の理解が十分でないケースも多く、あるシングルマザーは「面接で毎回『子どもが病気になったらどうしますか?』と聞かれ、できる限り親に頼ると言っても急な発熱時は休むしかなく、結局どこもダメで派遣で働いている」と語っています。

このように、子育てを優先するために時間の融通が利きやすい非正規雇用を選ばざるを得ず、結果的にパート勤務のシングルマザーが多くなっているのです。

理由2: 正社員で働きづらいブランクと求人の壁

シングルマザーが正社員などのフルタイム就職を希望しても、それを阻む環境的なハードルが存在します。例えば、出産や育児のために一度職場を離れた場合、長いブランクが再就職の大きな障壁となります。子育て中の女性が正社員として転職するのはハードルが高く、受け入れてくれる求人自体が限られているという指摘もあります。

とりわけ、専門的な資格や高いスキルがない場合、正社員の採用選考で不利になることも少なくありません。またブランクによる不安から、自信をなくしてしまうシングルマザーもいます。実際、とあるシングルマザーは「妊娠を機に会社を辞め、数年のブランクの後に正社員で働きたいと思ったが、たった数年でも元のように働けるか自信が持てず、採用ハードルの低いコールセンターで働いた」と述べています。

このように、長期間の離職やスキル不足の不安により正社員就職を断念し、仕事の範囲が限定され柔軟に働けるパートを選ぶケースも多いのです。

理由3: 支援制度の収入制限と経済的判断

シングルマザーの中には、公的支援制度との兼ね合いで敢えて収入を抑えているケースもあります。日本には「児童扶養手当」というひとり親家庭向けの給付制度があり、年収が一定額以下の場合に子どもの人数に応じて支給されます。

この手当はシングルマザーの収入が増えると段階的に減額され、年収160万円以下で満額(月約4万3,160円)が支給されますが、それ以上収入が増えると10円単位で支給額が減り、年収360万円を超えると支給がゼロになる仕組みです。

そのため、パートで低収入のうちは手当を受けられていても、下手にフルタイムで収入が上がると手当が減額・打ち切りとなり、トータルの収入が思ったほど増えない場合があります。特に収入が児童扶養手当の支給境界に近いシングルマザーにとっては、「頑張って正社員になっても手当が無くなるなら、無理に収入を増やさない方が得策」という経済的判断につながりやすいのです。

加えて、フルタイムで働けば保育料や学童保育の延長料金など出費も増える可能性があり、経済的・時間的コストを天秤にかけてパート勤務を選択するシングルマザーもいます。

シングルマザーのフルタイムがきつい背景

次に、シングルマザーがフルタイム勤務を「きつい」(つらい)と感じてしまう背景について、主なものを3つ挙げます。これは前述の「なぜパートなのか」という理由と表裏一体ですが、特に日本の労働環境や家庭状況に根差した要因があると言えます。

その1: 日本の長時間労働・残業文化と柔軟性の欠如

日本の正社員の働き方は総じて勤務時間が長く、残業や突発的な業務対応も多い傾向があります。フルタイム勤務に伴う長時間労働や残業前提の職場文化が、シングルマザーにとって大きなハードルとなっています。子育て中は定時で仕事を上がっても、その後に育児や家事が待っています。

しかしながら、多くの職場では、子どもの用事で早退・遅刻したり残業を断ったりすることに理解が乏しいのが実情です。

先述のように、正社員の場合は自分の都合で勤務時間を調整するのが難しい職場もあり、シングルマザーは職場に迷惑をかけてしまうのではというプレッシャーを常に感じながら働かなければなりません。会社の働き方が子育て世帯に非寛容で柔軟性が低いこと自体が、シングルマザーにフルタイム勤務を躊躇させる背景となっているのです。

その2: 一人で仕事・家事・育児を抱えて心身が疲弊

シングルマザーは一家の生計を支える「稼ぎ手」と、子育てを担う「親」の二役を一人でこなしています。フルタイムで働けば、勤務後に待っている家事や育児まで含めて休む間もありません。

その結果、心身の疲労が蓄積しやすく、特に小さい子どもを抱える場合は夜間の世話も重なり慢性的な睡眠不足に陥ることもあります。あるシングルマザーは「一人二役(働き、家事育児)を頑張っている。非正規雇用でしか働けないが、体を壊すほど働いても月の手取りが14万円の時もあった」と述べています。

フルタイムで長時間働いても家計はギリギリ、さらに体力的にも追いつかないという状況に陥りやすいのです。こうした過重な負担から、「フルタイムではとてもやっていけない」と感じてパートに留まる人も少なくありません。仕事と育児の両立による疲弊感が、フルタイム勤務を続けることを難しくしています。

その3: 周囲のサポート不足と職場での理解の乏しさ

フルタイム勤務がきつい背景には、シングルマザーを支える周囲のサポートの不足もあります。配偶者がいない分、子どもが病気のときや急な用事ができたときに代わりに対応してくれる大人がいないケースが多く、親族の助けを得られない人もいます。

本来であれば、地域や職場のサポート体制が期待されますが、残念ながら現実には十分とは言えません。先に触れたように、面接の段階で子どもの病気時の対応を懸念されて不採用になってしまう例や、運よく正社員になっても職場の理解がなく肩身の狭い思いをしている例もあります。

さらに、非正規で働くシングルマザーからは「派遣で働いているが、派遣先の業績悪化でいつクビを切られてもおかしくない状況。不安で自律神経失調症になった。それでも生きるために休んでいられない」という切実な声も上がっています。

このように、職場の理解不足や雇用の不安定さからくる精神的ストレスも、シングルマザーがフルタイム勤務を続けにくい一因となっています。安心して子育てと仕事を両立できるような周囲のサポートや環境整備がまだ不十分であることが背景にあるのです。

シングルマザーの雇用を支援する仕組み一覧

上記のような課題を受けて、国や自治体ではシングルマザーの就労を支援するための様々な制度や支援策を設けています。主な支援策を以下にまとめます。

制度名 内容 主な支援内容 相談先・窓口 参考URL
マザーズハローワーク(マザーズコーナー) 子育て中の女性向け就職相談・求人紹介窓口。子連れ相談可、保育サービス情報提供、就職後のフォローも実施。 求人開拓就職相談両立支援 ハローワーク(公共職業安定所) cfa.go.jp
母子家庭等就業・自立支援センター ひとり親を対象に就業相談・職業紹介・資格講座・求人情報提供・履歴書指導・面接対策等を総合支援。 職業訓練履歴書指導在宅就業支援 都道府県/指定都市 設置センター gender.go.jp
母子・父子自立支援プログラム策定事業 担当支援員が個別プランを作成し、就業支援・手当手続き・養育費相談など生活全般をワンストップ支援。 就業プラン策定同行支援生活支援 自治体 福祉事務所 gender.go.jp
自立支援教育訓練給付金 就職に有利な資格取得講座の受講費を補助(例:費用の60%、上限20万円)。修了後の就職促進が目的。 受講費補助スキルアップ支援 自治体 ひとり親支援窓口 cfa.go.jp
高等職業訓練促進給付金 1年以上(※現在6か月以上)の養成機関で学ぶ場合、在学中毎月10万円(課税世帯は70,500円)を支給。最後12か月は+4万円。 生活費支給資格取得支援 自治体 ひとり親支援窓口 cfa.go.jp
高等職業訓練促進資金貸付事業 入学時50万円、就職準備金20万円を無利子貸付(条件で返済免除)。住宅支援資金も最長12か月貸付(上限7万円)。 入学金貸付就職準備金住宅支援 自治体 福祉事務所 gender.go.jp
在宅就業支援(ひとり親家庭の在宅就業推進事業) 在宅ワーク希望者に、仕事あっせん・企業マッチング・スキル習得支援を提供。必要に応じて機器貸与や訓練案内も。 在宅ワーク紹介マッチング訓練案内 事業実施団体 / 就業・自立支援センター gender.go.jp

こうした支援策に加え、国は近年、ひとり親を積極的に採用し人材育成や賃上げに取り組む企業への助成を拡充する方針も打ち出しています。シングルマザーの雇用に理解ある企業側へのインセンティブを強化し、安心して長く働ける受け皿を増やす取り組みも進められています。

まとめ:こどもとの時間が足りない人が多い

シングルマザーがパート勤務を選ぶ理由や、フルタイム労働の厳しさの背景には、「子どもとの時間を確保したい」「子育てと仕事の両立が難しい」という切実な思いが横たわっています。経済的に苦しくても、子どもと過ごす時間や育児の質を犠牲にできないために短時間労働を選ぶ人が多いのです。

「収入が減って将来が不安だけど、これ以上仕事を増やすと子どもたちとの時間が無くなってしまう」と悩む声も寄せられています。シングルマザーの多くが抱えるこのジレンマを解消するには、柔軟な働き方の普及や職場の理解促進、そして経済的支援の充実が不可欠です。

幸い現在、国や自治体、企業による支援策の拡充が進み始めています。シングルマザー自身も支援制度を上手に活用しながら、自身のキャリア形成や生活環境を整えていくことが大切です。経験者の声や専門家の助言を参考にしつつ、働き方を工夫していけば、収入を上げつつ子どもとの時間も確保できる道が開けるでしょう。

社会全体でシングルマザーとその子どもたちを支える仕組みを発展させ、「ひとり親だからフルタイムはきつい」「子どもとの時間が足りない」という状況を少しでも改善していくことが求められています。

参考資料(出典)

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本記事の監修者

森本 恭平のアバター 森本 恭平 運営者

東北大学法学研究科(公共法政策専攻)修了。幼少期は母子家庭で育った。東日本国際大学・福島復興創世研究所の准教授を経て、現在はデジタルマーケティング✖︎AIを専門にフリーランスとして複数の企業でアドバイザーを務めている。KADOKAWAドワンゴ情報工科学院、バンタンクリエイターアカデミーの講師。福島県総合計画審議委員会の審議員を歴任。

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