みなさんは「寡婦」という言葉を聞いたことはありますか?
何となく聞いたことはあっても、その内容がよくわからない人たちも多いかもしれません。特に、似たような概念として「ひとり親」という言葉もありますが、その違いが不明瞭で意味を捉えきれないという人もいるでしょう。
この記事では、「寡婦とは何か?」という基本的な概念の説明をしたうえで、ひとり親との違いをわかりやすく説明しています。
寡婦とは?
寡婦とは、夫と死別または離婚し、現在婚姻していない女性を指す言葉です。 法律や制度の上では、婚姻関係が事実上解消され配偶者のいない女性で、一定の条件を満たす場合に「寡婦」と認定されます。
例えば、所得税法では、その年の12月31日時点で夫と死別または離婚後再婚しておらず、所定の所得要件を満たす女性が「寡婦」に該当します。
また、社会福祉の分野では、かつて未成年の子を扶養していた母子家庭の母で、子が成人(20歳以上)した後も配偶者がいない女性を「寡婦」と定義しています。つまり、子育てが一段落した元ひとり親の女性も寡婦に含まれるのです。
寡婦の読み方
「寡婦」の読み方は「かふ」です。 日常会話ではあまり使われない言葉ですが、公的な文書などで登場することがあります。「寡」は「か(寡占〈かせん〉など)」と読み、「婦(ふ)」と合わせて「かふ」と読みます。
先述の通り、夫のいない女性(特に夫と死別した女性)を意味しており、「やもめ」と呼ばれることもあります。ただし、「やもめ」は男性の寡夫(やもめ)にも用いる場合があるため、公的には女性の場合は「寡婦(かふ)」、男性の場合は「寡夫(かふ)」**と区別されます。
ひとり親との違い
「寡婦」とよく比較される言葉に「ひとり親」があります。ここからは、寡婦と「ひとり親」の違いを3つのポイントで解説します。 寡婦とひとり親は似た状況を指しますが、意味や制度上の扱いに違いがあります。
その1: 寡婦は女性限定だが、ひとり親は男女を含む
まず大きな違いは対象となる性別の範囲です。寡婦という言葉自体が女性を指すため、寡婦は配偶者のいない女性のみを対象としています。一方で「ひとり親」は男女を問わず使われる言葉で、配偶者のいない母親(母子家庭の母)だけでなく父親(父子家庭の父)も含む広い概念です。
例えば、公的支援の案内では「ひとり親家庭」は母子家庭の母、父子家庭の父の両方を含む用語として使われます。つまり、男性のシングルファザーも「ひとり親」ですが、「寡婦」とは呼ばれません。
男性の場合は「寡夫(かふ:やもめ)」という言葉がありますが、一般的にはあまり使われず、制度上も近年は男女まとめて「ひとり親」と表現される傾向があります。
その2: ひとり親は未成年の子を扶養中、寡婦は子がいなくても該当する
次に、扶養する子どもの有無や婚姻歴による違いがあります。「ひとり親」とは通常、未成年の子を一人で養育している親を指します。配偶者と死別・離婚、あるいは未婚で子を出産した場合などで、未成年の子を育てている母または父が「ひとり親」です。
児童扶養手当等では18歳まで等の定義がありますが、基本的に未成年の子がいるかどうかがポイントです。
一方、「寡婦」は現在扶養する子どもがいなくても該当しうる点が異なります。夫と死別または離婚後に子どもがいない場合や、子が既に成人している場合でも、再婚していなければ「寡婦」に該当します。
例えば、夫と離婚した後子供を持たなかった女性や、子育てを終えた女性も寡婦と呼ばれます。さらに婚姻歴についても、ひとり親控除では婚姻歴のない未婚のシングルマザー・シングルファザーも対象ですが、寡婦という言葉は本来過去に婚姻関係があった女性を指します。
未婚で子どもを持った場合、その女性は制度上「ひとり親」ですが、「寡婦」という表現は用いません。このように、ひとり親は“未成年の子あり”に焦点があり、寡婦は“配偶者なし”に焦点がある点で違いがあります。
その3: 税制・制度上の扱いの違い
税制など制度上の区分の違いも重要です。従来、所得税法では配偶者のいない女性に対し「寡婦控除」という所得控除が設けられていましたが、2020年(令和2年)分以降の税制改正で「ひとり親控除」が新設されました。
ひとり親控除は、性別を問わず子どもを扶養するひとり親(シングルマザー・シングルファザー)に適用される控除です。具体的には、生計を一にする子どもがいる人で、配偶者と死別・離婚後再婚していないか、または婚姻歴がないひとり親が所得500万円以下であれば35万円の控除を受けられます。
一方、寡婦控除は現在も存続していますが、その対象はひとり親控除に該当しない女性に限られます。扶養する子どもがいない寡婦(所得500万円以下)や、離婚後に子以外の扶養親族を養っている女性などが27万円の寡婦控除を受けられます。
要するに、子供を養育中であれば男女問わずひとり親控除が適用され、子供がいない場合は女性のみ寡婦控除が適用されるという形に整理されています。このように税制上は「ひとり親」が広い枠組みとして整備され、寡婦はその中に含まれる特定の区分となりました。
なお、公的年金や手当の面でも、「ひとり親家庭」は児童扶養手当など子ども向けの支援が中心であるのに対し、寡婦には子育て終了後も利用できる支援(後述)が用意されています。
寡婦として認定されるのはいつまで?
「寡婦」であると認定される期間に明確な期限はありませんが、再婚した時点で寡婦とはみなされなくなります。 基本的に、寡婦の定義は「現在配偶者がいないこと」ですので、新たに婚姻をした場合はもちろん、事実婚(内縁関係)の状態になった場合も公的には寡婦に該当しなくなります。
例えば住民票上で「夫(未届)」「妻(未届)」といった内縁関係を示す続柄が記載されている場合、公的には婚姻関係と同様とみなされ寡婦控除などの対象外となります。
一方、寡婦である状態そのものには年齢制限などはなく、再婚しない限り一生涯寡婦という身分が続くことになります。ただし、制度によっては年齢や状況に応じて受けられる支援が変化します。
例えば、夫が亡くなった妻に支給される遺族年金は、子どもがいるうちは「遺族基礎年金」が出ますが、子どもがいない40歳以上65歳未満の妻には遺族厚生年金に中高齢寡婦加算(年額約62万円)が加えられ、65歳まで遺族年金が手厚く保障される仕組みになっています。また、20歳未満の子を扶養していた母子家庭の母は子が成人すると「寡婦」のカテゴリーに移行します。
このように、寡婦である期間は本人が再婚しない限り続きますが、受けられる支援内容は年齢や子どもの有無によって変わっていきます。自分がいつまで何の支援を受けられるか迷ったときは、後述の相談先に確認することをおすすめします。
寡婦が利用可能な支援制度一覧
寡婦となった場合に利用できる代表的な公的支援制度を一覧にまとめます。一人で生計を支える不安を軽減するため、税制上の優遇や年金・手当など様々なサポートがあります。それぞれ対象要件がありますので、該当しそうな制度があれば確認してみましょう。
支援制度 | 内容 | 主な条件 | 公式情報 |
---|---|---|---|
寡婦控除 (所得税・住民税) |
所得から毎年27万円を控除(住民税も同額)。子のいない女性の税負担軽減措置。 | 夫と死別または離婚後再婚していない・所得500万円以下。 | 国税庁 |
ひとり親控除 (所得税・住民税) |
生計を同じくする子を扶養しているひとり親に35万円控除。 | 配偶者なし・所得48万円以下の子を扶養。男女問わず適用。 | 国税庁 |
遺族年金 (遺族基礎年金・遺族厚生年金) |
夫死亡時に妻や子へ支給。40~65歳未満で子なしの場合、中高齢寡婦加算(年額約62.38万円)。 | 年金加入者の配偶者が死亡。加入要件を満たす必要あり。 | 日本年金機構 |
寡婦年金 | 夫が年金受給前に死亡した場合、60~65歳の妻に年額(老齢基礎年金の4分の3)を支給。 | 遺族基礎年金が受け取れない妻。保険料納付要件あり。 | 日本年金機構 |
児童扶養手当 | 20歳未満の児童を扶養するひとり親に月額支給(例:児童1人で約43,160円/満額)。 | 父母と生計を同じくしない児童を扶養。所得制限あり。 | 板橋区公式サイト |
母子および寡婦福祉資金の貸付制度 | 無利子・低利子で生活・教育・技能習得等の資金を貸付。返済免除規定あり。 | 母子家庭や寡婦。自治体による審査あり。 | 厚生労働省 |
その他の自治体支援 | 医療費助成・公営住宅優先・交通機関割引・就労支援など。 | 自治体ごとに条件・内容が異なる。 | お住まいの自治体HP |
まとめ:一人で悩まずに相談しよう
寡婦となった方は、一人で悩みを抱え込まず、公的な相談先にぜひ相談してください。 配偶者を失ったり子育てを終えたりすると、経済面や生活面で将来の不安が大きくなるものです。
しかし、日本には寡婦やひとり親を支える制度が数多くあり、適切に利用することで負担を軽減できます。各市区町村にはひとり親家庭や寡婦の相談窓口が設置されており、担当職員が制度の案内や手続きのサポートを行っています。
たとえば市役所の福祉課には「ひとり親家庭福祉担当」の係があり、電話や対面で無料相談が可能ですtown.shimamoto.lg.jp。また、全国には母子寡婦福祉団体(○○県母子寡婦福祉連合会など)も組織されており、同じ境遇の方同士の情報交換や支援活動が行われています。
公的機関の情報や専門家のアドバイスを積極的に活用し、利用できる支援は遠慮せず利用しましょう。困ったときは決して一人で抱え込まず、行政や専門機関に相談することが、安定した生活への第一歩となります。「寡婦だから…」と引け目を感じる必要はありません。
社会全体であなたの再出発と生活の安定を応援する制度がありますので、ぜひ活用を検討してください。困難なときこそ、周囲の助けを借りながら新たな生活を築いていきましょう。必要な支援を受けることで、きっと前向きな一歩を踏み出せるはずです。
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